猿と植物の関係
こんにちは。二助企画です。
前回まで、おサルさんの名前が付く植物についてご紹介してきましたが少し角度を変えて、「ニホンザルの自然社会-エコミュージアムとしての屋久島」(高畑由紀夫・山極寿一編)を参考に、今回は、おサルさんと植物の「関係」についてのお話します。
植物は、種の保存のために種子を持っていますね。植物は、種子とそれを包む果実の分散を計るために、風、水、動物などの力を利用しています。その中でも、動物による種子散布には、
・硬い種子が糞と共に排出される「周食型」
・動物が食べ残した「食べ残し型」
・身体や羽毛にくっつく「付着型」
の3種類があります。
上記のうち、おサルさんは「周食型」「食べ残し型」を実践する種子散布者として、とても優秀。強力な働き手として活躍しています。
同書によると、屋久島の西部地域の照葉樹林においては、おサルさんが最大の果実食者であり、最もひろい範囲で果実を食べると紹介されています。
ではその屋久島で、おサルさんは、種子散布者として、具体的にどんな成果を上げているのか?
答は、「森林の成長・更新に大きな貢献をしている」と言えそうです。
森林には時おり、太陽の光が直接地面に降り注ぐような空間が現れることがあります。台風などで大木が倒れたり、枯死(こし)によって現れる、この空の開けた場所を森林生態学用語で「林冠ギャップ」と呼びます。この「林冠ギャップ」の更新に、おサルさんが大きな影響を与えているのです。
先程、おサルさんは、「周食型」の種子散布者であることに触れました。おサルさんは、多くの果実を食べて、その糞を通して種子を散布するということですが、その種子を散布する場所に、ポイントがあります。
実はおサルさん、毛づくろいをしながら脱糞することが多いのですが、その毛づくろいをする場所は、「林冠ギャップ」のように、開けた明るい場所が多いのですね。
つまり、おサルさんは種子の発芽に適した場所で、種子を散布しているということ!
なんと効率的なのでしょう!
一方同書では、おサルさんの頬袋(ほおふくろ)散布についても、解説しています。
ニホンザルには、口腔に頬袋と呼ばれる器官があります。ほっぺたの少し下あたりが袋状になっていて、食物を一時的にためておく場所です。
おサルさんたちは、まず木の上で木の実を頬袋に詰め込んで、別の場所で少しずつ取り出して食べるのですが、その際に直径が5ミリメートルを超える大きな種子は吐き出すのです。
この行動が、「周食型」の種子散布のもう一つのスタイルです。
糞をして種子を散布するのか、種子を吐き出して散布するのか。この違いは、どうやら種の大きさにヒントがありそうだということ。
加えて、果実と種が離れやすい果実は、頬袋散布されることが多いということのようです。
ここでは、簡単におサルさんの種子散布者としての働きっぷりをご紹介しましたが、興味のある方は、同書を手に取ってみてくださいね。おサルさんと植物の関係の詳細が、たくさん紹介されています。
毎年特に大きな変化が起きていると感じられない森林ですが、その成長・更新・維持に、おサルさんたちは大きな役割を果たしていることを知ることができます。
次回のコラムもお楽しみに。
二助企画は、日本の伝統芸能猿まわしのプロフェッショナル集団。
猿まわしやニホンザルのことについて、あらゆる領域から情報発信をしてまいります。
ブログは毎月2回、第1・3金曜日に公開予定。
最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回のブログでお会いしましょう!
参考文献
・ニホンザルの自然社会 エコミュージアムとしての屋久島/高畑由起夫・山極寿一編著 京都大学学術出版会
・名古屋大学大学院生命農学研究科>森林の構造と動態
・霊長類研究(30)P53-78/種子散布者としての霊長類の役割:研究の現状と今後の課題 佐藤宏樹
他