おサルに願いを⑩土偶や埴輪に込めた祈り
こんにちは。二助企画です。
「おサルに願いを」シリーズ第10弾。今回から、いよいよ日本におけるお話です。
以前「日本人とサル」というタイトルで、日本人のおサルさんの関係について触れましたが、日本において、人とおサルさんに「関係性」が見られるようになるのは縄文時代から。
縄文時代と言えば、土偶。
土偶は、呪術や祭祀の道具として豊穣を祈るために作られた、死者の霊の災いを防ぐために用いられたなど諸説ありますが、いずれにしても、当時を生きた人々の祈りが込められたものだと考えられます。
おサルさんの土偶として有名なのは、青森県弘前市の十面沢遺跡から出土したもの。身体全体に体毛を表現していると推測できるボツボツの穴が開いており、短い尾を持つ。そして尻だこがあることが、この土偶がサルであることの証拠。
(画像:奥州市公式ホームページ内よりお借りしました)
では、どうして当時の人は、わざわざ人ではなくおサルさんの土偶をつくったのか?
その理由は、おサルさんの「安産」にあるようです。当時のお産はとても重く、乳幼児の死亡率も相当高かったと推測されますが、一方野生のおサルさんのお産はとても軽い。当時の人はそうしたおサルさんの出産の安全性にあやかりたいという思いで、おサルさんの土偶をつくったのでしょう。
おサルさんの土偶で、もうひとつご紹介したいのが、青森県八戸市風張1遺跡から出土した屈折土偶。
(画像:青森県庁ホームページ内よりお借りしました)
こちらも出産を表現しているのではないかという分析がされています。
時代は進み、古墳時代になると農耕が始まると、人は定住をはじめ急速に人口が増えることととなります。そして人とおサルさんの関係性にも変化がみられるように。
古墳時代につくられた土製品は、土偶ではなく埴輪と呼ばれるものとなりますが、埴輪にもおサルさんを模したものがあります。
(画像:地域情報サイト「まいぷれ」サイト内よりお借りしました)
おサルさんの埴輪は、縄文時代の土偶とは異なり、かなり抽象化されて表現されるようになりました。
ではなぜ、縄文時代の土偶のような精巧な写実性が失われたのか?
それは、農耕技術を持つことで人の集まりが発生し、人と人との争いが起こるようになり、サルを含めた動物に関する関心が低下したからではないかという指摘があります。
文化を持つことで、自然に対する優位性を持ち始めた人。縄文時代のようなアニミズム的一体感が薄らいできたということですね。それでも、まだまだ人々は、おサルさんの存在を信仰の対象としていたことが、埴輪の存在から予測できます。
ところで、おサルさんの安産にあやかりたいという願いは、似たような文化が現在にも引き継がれているのをご存じでしょうか?
情緒あふれる古い町並みが有名な飛騨高山の「さるぼぼ」。
(画像:高山市公式ホームページ内よりお借りしました)
「さるぼぼ」とは、飛騨の言葉で「猿の赤ん坊」という意味だそうです。飛騨地方では、母親が娘の縁結び・安産・夫婦円満を願い、また、子ども達が健やかに育つことを願い、この可愛らしいお守りをつくったとのこと。
昔も今も、安全なお産や、赤ちゃん・子ども達の健やかや成長は、共通の願いですね。
長くなりましたので、今回はここまで。次回も引き続き、日本のおサルさん信仰について触れていきます。
二助企画は、日本の伝統芸能猿まわしのプロフェッショナル集団。
猿まわしやニホンザルのことについて、あらゆる領域から情報発信をしてまいります。
ブログは毎月2回、第1・3金曜日に公開予定。
最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回のブログでお会いしましょう!
参考文献
・世界動物神話/篠田知和基 八坂書房
・サル その歴史・文化・生態/デズモンド・モリス 伊達淳訳 白水社
・十二支になった動物たちの考古学/設楽博己 新泉社
・アニマルロアの提唱‐ヒトとサルの民俗学/廣瀬鎮 未来社
・人とサルの社会学/三戸幸久・渡邊邦夫/東海大学出版会
・地域情報サイト「まいぷれ」>なめがたヒストリー>行方市のはにわ
https://namegata.mypl.net/article/history_namegata/83791
・奥州市公式ホームページ>牛の博物館>牛馬の守護神 厩猿信仰>サルと人の関わり 三戸幸久
https://www.city.oshu.iwate.jp/section/ushi/07_tomo/mayazaru/03_sannohe.html
・青森県 > 教育委員会 > 文化財保護課 > 土偶(青森県風張1遺跡出土)
https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kyoiku/e-bunka/kokuho_kouko_1.html
・高山市ホームページ>市政情報 > 産業 > 商工業 > 特産品関連 > 伝統的工芸品・岐阜県郷土工芸品 > 飛騨のさるぼぼ
他(順不同)