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靭猿(うつぼざる)のおはなし

言葉芸能

皆様こんにちは。

 

二助企画ではサイトのリニューアルに合わせて、本年から猿まわしやニホンザルにまつわるよもやま話をブログにて公開していきます!

 

猿まわしやニホンザルのことを、皆様にもっとたくさん知っていただき、親しみを持っていただければとても嬉しいです。

 

さて、初回のお話は「靭猿」について。

 

靭猿は、日本の伝統芸能のひとつである狂言の演目。

靭猿は(うつぼざる)と読みます。主人公は、猿まわしとお猿さん!!

 

まず、靭(うつぼ)のご説明から。靭とは、矢を入れる道具の名称。その昔、武士が腰や背に負って使用したものです。

 

お子様(特に男児)がお生まれになった初正月に、破魔弓を飾られるご家庭もあるではないでしょうか?破魔弓とセットで弓矢をいれるうつぼ(この場合の漢字は『空穂』のようです)をご覧になっている方も多いでしょう。

 

さて、本題の「靭猿」の内容について。

 

以下、文化デジタルライブラリー(独立行政法人日本芸術文化振興会が運営するサイト)からの引用です。

 

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―靭猿(うつぼざる)あらすじ―

遠国(おんごく)[地方]の大名は長い都暮らしの気晴らしに太郎冠者と狩りに出かけ、猿引(さるひき)[猿回し]に出会います。毛並みの良い猿を見て大名は靭(うつぼ)[矢を入れる筒]を猿皮で飾ろうと思いつき、猿を貸せと言います。それでは猿が死んでしまうと猿引が断ると、大名が弓矢で脅すので、猿引はやむなく自分で殺すことにします。猿に言い含め、杖を振り上げると、猿はその杖を取って舟をこぐ物真似の芸を始めます。そのいじらしさに猿引は泣き出し、大名ももらい泣きし、猿の命を助けることにします。喜んだ猿引が礼を言い、めでたい猿歌をうたって猿を舞わせます。その面白さに大名も上機嫌になり、扇や太刀、着ているものまで与え、自ら猿の真似をしてはしゃぎます

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なんと、健気なお話でしょうか。お猿さんは、自分を殺そうと猿まわし(猿引)が杖を振り上げたのを、芸の合図だと勘違いしたのですね。最後がハッピーエンドで何よりです。「芸は身を助ける」。お猿さん、殺されなくて本当に良かった……!

 

靭猿は、とても有名な演目なので、インターネット上でも様々な動画が公開されています。ご興味のある方は、是非検索されてみてくださいね。小さなお子様でも親しみやすい、絵本もあります。

 

ところで狂言の世界では、「猿に始まり狐に終わる」という言葉があります。

 

狂言の家では23歳くらいから稽古(けいこ)を始めるそう。そして正式に初舞台を踏むのが6歳前後なのですが、その最初の役が『靭猿(うつぼざる)』の小ザルなんです。

 

『靭猿』からスタートした狂言師の卵さんが、いわゆる一人前と認められるために挑むのが『釣狐(つりぎつね)』という演目だそう。そこで「猿に始まり狐に終わる」というのですね。

 

ちなみに、靭(うつぼ)の漢字ですが、本来は「靫猿」という表記が正しいそうです。しかし古来、別字であるはずの「靱」の字と混用されており、広辞苑の「うつぼ」の項には「『靱』と書くのは誤用」という注がありますが、狂言などの演目としては「靱猿」の表記を取っています。一方、日本国語大辞典は「靫猿」とあえて他の辞書とは違う表記を採用しています(以上、「毎日ことば」(毎日新聞校閲センター運営サイトより)。

 

そして、靭と言えば。大阪に住んでいる方なら、「靱公園」が浮かぶと思うのです。せっかくなので、靭公園の名前の由来もご紹介しておきます。以下、一般社団法人大阪市コミュニティ協会のサイトからの引用です

 

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靭公園名前の由来

靭の地名は当時この地に進出してきた商人たちの旧地(現中央区伏見町一丁目)において、魚を売る商人が市売りの呼び声を「やすーやすー」と叫んでいるのを、魚を入れたビクを見て巡見中の豊臣秀吉が、矢を盛って腰に背負う用具「靭」を「矢の巣」と称して売っているのだと信じ、それは「靭」というものだと教えた故事に基き、商人たちが町名として用いた。

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なんと……!

 

靭公園の名前の由来に、「サル」の異名を持つ、豊臣秀吉が関係していたとは。なんだか、色々繋がりますね。

 

最後にもうひとつ。

 

靭猿をモチーフにした漫画のご紹介をします。

 

1981年1023日に「週刊少年チャンピオン」に掲載された手塚治虫の漫画「七色いんこ」の26話は、靭猿をモチーフにしたお話。

 

タイトルの「七色いんこ」とは、鳥の「いんこ」ではなく、主人公の名前。公式サイト曰く「まったくのしろうとで役者ではないが、高い演技力をもっており、代役専門に引き受けることを生業とする舞台俳優」とのこと。果たして、どんな風に靭猿の話が盛り込まれているのか?ご興味のある方は、ぜひチェックしてみてくださいね。

 

 

二助企画は、日本の伝統芸能猿まわしのプロフェッショナル集団。

猿まわしやニホンザルのことについて、あらゆる領域から情報発信をしてまいります。

ブログは毎月2回、第1・3金曜日に公開予定。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

また次回のブログでお会いしましょう!

 

 

 

主な参考文献・サイト(順不同)

・文化デジタルライブラリー(狂言の演目と鑑賞)

https://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/contents/learn/edc12/enmoku/utsubozaru.html

・京都観光オフィシャルサイト(京の用語集)

https://ja.kyoto.travel/glossary/single.php?glossary_id=1114

・毎日ことば(【芸能と猿】猿若、猿飛出、申楽談儀、猿女、靱猿)

https://mainichi-kotoba.jp/kanji-370

・一般社団法人大阪市コミュニティ協会(わが町百科:靭公園)

https://www.osakacommunity.jp/nishi/wagamati/utubo/utubo.htm

・手塚治虫オフィシャルサイト(漫画:七色いんこ)

https://tezukaosamu.net/jp/manga/320.html

・狂言えほん うつぼざる/作:もとしたいづみ 絵:西村繁男 講談社

 

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